ラグビー日本代表と企業経営

                                              (株)中央総合研究所
                                                    三澤 響

 昨年9月から英国で開催されたラグビーワールドカップにおいて、ラグビー日本代表が歴史的な勝利をあげた。過去に2回、ラグビーワールドカップを優勝している南アフリカに勝利した初戦をはじめ、4戦中3勝をあげた今回の熱い戦いは、日本国内のみならず、世界中に感動を呼んだ。日本代表選手の帰国後は、これまでテレビで見かけることが少なかったラグビー選手がテレビに出演する機会も増え、「五郎丸ポーズ」は社会ブームにもなっている。

 今回の歴史的な勝利を実現したのには、世界的名将でもあるエディー・ジョーンズ(以下、エディー)の功績が大きいとされている。2012年にヘッドコーチに就任をしたエディーは厳しい指導により日本代表を強化していったが、そのマネジメント手法は、企業経営に通じるものが多い。

1.目標設定の明確さ
 エディーは、就任当初より、2015年ラグビーワールドカップでのベスト8入りを目標に掲げ、そこに至る過程を詳細に計画・実行していった。例えば、「実際の試合会場を数カ月前に選手全員で視察する」「試合を担当するレフェリーを大会前に日本に招待し、練習試合のレフェリーをお願いする」「実際の試合間隔と同じスケジュールで練習試合を行う」等は、目標が明確であるからこそ実行できた内容である。
 企業経営においては、スポーツほどは明確な目標設定は難しいかもしれないが、売上や利益の目標を定量的に示し、社員への動機付けを徹底し、目標達成に向けた取り組みを徹底して、継続することが必要である。

2.強みを活かす
 エディー・ジョーンズは、日本人の強みを「真面目で勤勉さ」と理解し、その強みを最大限に活かす戦術として「Japan Way」という戦い方を考案した。
 企業経営でも同様である。企業の歴史、文化、従業員の特長をよく理解し、その強みを活かす戦術を考案し、徹底的に実行していくことが経営者の役割であり、マーケットで勝負して行くために必要なことである。

3.人材を活用する
 エディー・ジョーンズは、世界中から優秀なコーチを呼び寄せ、選手の指導にあたらせた。スクラムだけを訓練するフランス人コーチ、ディフェンスだけを指導する英国人コーチ、身体の姿勢だけを指導する元格闘家など、多彩な人材が選手の指導にあたった。
 企業経営においても、経営者が自分一人でできることを限られている。従業員の長所を理解したうえで、上手に仕事を任せ、社内だけで不足しているリソースは、外部の人材活用や他企業との連携で補い、総合的に企業力を発揮するようにアレンジすることが、経営者の重要な役割である。

4.成果を出し続ける
 エディー・ジョーンズは、就任後、ワールドカップに至るまでの過程で、小さな成果を積み上げている。世界ランキングで初の10位以内、強豪国のウェールズやイタリアからの勝利など、選手が自信を持てるような成果を出し続けてきた。それが、4年間、厳しい練習に耐え続けられた秘訣であろう。
 企業経営においても、従業員が経営者を信頼し続け、より大きな成果を追い求め続けるためにも、前年度比増収や増益、新規事業の黒字化など、大きな目標達成からしてみれば小さいかもしれないが着実な成果を出し、社内外に信頼感を示すことが必要である。

 最後になるが、五郎丸選手がキックを蹴る際の動作、いわゆる「五郎丸ポーズ」が、「ルーティン」として大きく取り上げられている。その時々における試合の状況や観客の様子など、自らがコントロールすることができない外部環境に影響されないために、自らがコントロール可能な「自分の動作」にのみ集中することで、キックの精度を高めるという考え方である。実際に、今回のワールドカップでも、五郎丸選手のキックは高い成功率であった。当然であるが、企業経営でも、経済状況など、外部環境を完全にコントールすることはできない。外部環境は良いときも、悪いときもある。そして、外部環境が悪いときにこそ、経営者が立ち戻るべきは、自らがコントロールできる「経営のルーティン」に集中し実行することである。

 五郎丸選手には優秀なメンタルコーチが付き、指導をしていたと聞く。私たち中小企業診断士は、経営者の皆さまに「経営のルーティン」をご理解いただき、環境に左右されずに、自分がコントロールできることに集中する経営を実現していくサポートをしていきたいと考えている。