『強み』にこだわる

(株)中央総合研究所 
土田 健治

 「強みを活かす経営」ということが、さまざまな場面で語られます。しかし、いざ個々の企業の実状に即して考えてみると、一目瞭然として自他共に 認める「強み」が、必ずしも存在するとは限りません。むしろ、「強み」をなかなか見いだし難い場合も少なくありません。「強み」とはそもそもどういったも のでしょうか。「強み」を考えていく際に、どのような観点から考えていけばよいでしょうか。


■「強み」を考察するにあたってのよりどころ

 「強み」ということを考察するにあたって、よりどころとなる視点を確認しましょう。今ここで考えようとしている「強み」とは企業にとっての「強み」です。では、企業というものを根源的に規定するものとはなんでしょうか。ここでは以下の3点を考えてみました。
①企業は顧客に何らの商品・サービスを提供し、その対価として収益を得る。
②顧客にその商品・サービスを提供するものは自社だけとは限らない。
③企業には持続的な存在が求められている。

■企業を取り巻く今日の特徴

  企業が存在する市場において、ある商品・サービスに対する供給者が少ない場合は、企業(供給者)はそれほど苦労しなくとも、持続的な商品・サービスの販売 が可能です。しかし、供給者が多くなってくると、顧客は別の企業(供給者)から購買してしまう可能性が高くなります。それが今日の市場・経済環境の特徴で す。そして、「市場の供給者がグローバル化してきている」「顧客のニーズが多様化し、顧客の目が肥えてきている」という点が、さらに今日の特徴に加わりま す。

■「強み」を考えてみる上での切り口

 先にみた「企業の根源的規定」を、今日の市場の特性に合わせて考えてみると、 今日の企業に求められるものは、次のように具体化されます。すなわち、企業は、「商品・サービス」の提供を通じて、「顧客」に、「競合先」よりも、より大 きな「満足」を感じてもらうことを通じて、「持続的」な存続を図らなければならないということです。
 企業にとっての「強み」を考えていく場合に、この「商品・サービス」「顧客」「競合先」「満足」「持続的」というキーワードにそって考えていくことがポイントとなります。

■「強み」は「商品・サービス」にあらわれる

 「強み」を考えるにあたって、まずは企業の提供する「商品・サービス」を吟味する必要があります。そこには、顧客を惹きつける特徴があるでしょうか。
 ここで注意しておきたい点は、「商品・サービス」をとらえる場合、それを幅広くとらえるべきだということです。
  商品・サービスには、コアとなる要素と付随的要素があります。商品の場合であれば、コアとなる要素とは、その商品をその商品たらしめている本質的要素(た とえば衣料品であれば、体を動きやすく包み、保温し、それを着用する人をアピールする、など)だけでなく、デザインや品質、パッケージやブランドなども含 みます。付随的要素とは、提供の場、提供の仕方、顧客とのコミュニケーション、保証、提供者の信頼性などが含まれます。
 今日では、商品をその商品たらしめている本質的な要素では、多くの商品・サービスが同質化してしまっています。幅広くとらえたものの中に、顧客が魅力を感ずることが多くなっています。

■「強み」は「顧客」が評価する

  「商品・サービス」にあらわれる「強み」を評価するのは「顧客」です。したがって、企業が「強み」と思っていることが本当に「顧客」が評価してくれている のかということを検証していく必要があります。企業が「強み」と思っていても、顧客の側がそれを評価していない場合は、それは単なる「思い込み」「商品自 慢」にすぎないということになります。
 実際には、企業が顧客に提供する商品・サービスについて、その顧客評価を丁寧にリサーチすることは難しい 場合も少なくありません。そうした場合であっても、できるだけ、どのように顧客が商品・サービスを評価してくれるかということを顧客の目線で想定すること が重要です。その際、ポイントとなる点は以下の点です。
 ①顧客にはその商品・サービスを利用する状況・場面があるということ。例えば外食サービスを利用するとしても、「接待での利用」、「会社帰りの同僚との利用」、「時間のないランチでの利用」、「家族サービスでの利用」、では状況が全くことなるということです。
 ②顧客の状況・場面に応じて、何をどう評価するかという顧客の評価基準があるということ。「時間のないランチでの利用」という状況・場面においては、料理提供のスピードや、勤務場所との空間的な近さなどが重視されることになります。

■「強み」は「競合」との比較により「強み」といえる

  「強み」は、「競合先」との比較で優位にたってこそ「強み」ということができます。企業がいくら力をかけてきたものでも、「競合先」と変わらないレベルで は、顧客が数ある「競合先」の中からその企業を選択する理由にはなりません。したがって、「強み」を分析する上では、競合先の分析が不可欠です。どこが、 どのように、どの程度、「競合先」よりも魅力的なのか、ということを明らかにする必要があります。
 なお、ここで注意したい点は、ここでいう「競 合先」とは、必ずしも同業他社とは限らないということです。顧客が、どのような状況・場面で、何を求めているのかということを考えた場合、立ち食い蕎麦店 の「競合先」は、近隣の同業他社だけではなく、近隣のファストフード店、コンビニエンスストア、弁当製造販売店も対象になりうるということです。

■「強み」をもたらす顧客の「満足」とは

  顧客には、商品・サービスの利用によって得られる便益と同時に、その商品・サービスを利用するにあたっての負担があり、「得られる便益の総和-負担するも のの総和」によって顧客にとっての価値が決まります。これが期待どおりであれば顧客満足がもたらされ、期待以上(想定以上)であれば、顧客満足をこえ、顧 客感動をもたらすと言われています。
 したがって、顧客の満足を考える場合は、商品・サービスの提供を通じて顧客が得られる便益だけを考えるので はなく、顧客がそれを手に入れ、利用していくにあたっての顧客の負担にも目を向ける必要があります。この両面をとらえ、その上で、顧客が持続的に購買をし てくれる要素となりうるもの、それが「強み」だということです。
 なお、顧客が負担するものとしては、購入代金が代表ですが、それだけでなく、購入にあたっての情報収集、購入の手間、商品・サービス利用段階での手間、商品・サービスを廃棄・終了するための手間なども含まれることに注意する必要があります。

■「持続的」であってこそ「強み」である

 「強み」は一過性のものであってはなりません。企業が持続的に顧客に支持される要素となるものが「強み」です。
  ここで考えておきたいことが「価格の安さ」ということです。「競合先」に比べて一段と低価格でそれを提供すると、多くの場合、一時的には顧客の支持を得る ことができます。問題は、持続的に「価格の安さ」で顧客の支持を得ることができるか、ということです。それには、「低価格」での商品・サービスを提供し続 けられ、起こりうる「低価格競争」に打ち勝つ「仕組み」を、自らのビジネスモデルに内包することが求められます。それが成り立ってこそ、「価格の安さ」は 「強み」になることができます。

■「強み」は、「商品・サービス」だけに宿るのではない

 さて、ここまでは、「商品・サービス」「顧客」「競合先」「満足」「持続的」という、今日の企業に求められるキーワードにそって「強み」というものを見てきました。以降は、それらの点から派生する観点について見ておきます。
 我々が「強み」というものを問題にするのは、それをきちんと認識し、経営に活かしていくためです。その観点から考えた場合、見落としてならないのは、「強み」を生み出している経営資源、経営のあり方です。
 これまで見てきたように、「強み」は「顧客」との接点にあらわれます。顧客との接点とは、提供される「商品・サービス」であり、その提案・提供・フォローの場面です。
  そこにあらわれ、顧客に評価される「強み」は、企業活動の成果として生み出されているのであり、そこには必ず何らかの「経営資源」とその活用の取り組みが 存在します。ここを見落としてはならないということです。顧客接点にあらわれた「強み」を生み出したものが何であるか、分析していくのです。
 た とえば、ある企業の「強み」が「すぐれた接客サービス」であったとした場合、それがいかにして可能であったのかを考えていくと、「すぐれた接客サービスを 提供するスタッフの存在」があり、そのようなスタッフの存在が可能となったのは、「サービスマインドをもった人材の選考採用プロセス」「サービス人材養成 研修」「サービススタッフのモチベーションをアップするための種々のしかけ」などがあり、さらにそれらを可能たらしめるものとして、その企業のサービスに 対する高邁な企業理念が存在する、といったことです。
 こうした点をひとつひとつ洗い出し、吟味してみることが重要です。それが、ありきたりのも のでなく、他の企業ではおいそれとはマネのできない秀でたものであったならば、それらもまた企業の「強み」であるといえるのです。顧客接点での「強み」を 支える、企業に内在する「強み」。それらも、さらに伸ばし・経営に寄与するようにしていく必要があります。

■「強み」にも「弱み」にもとれるもの

  「強み」というものを分析していくと、時として、「これは『強み』にも『弱み』にもとれる」ということに直面することがあります。たとえば、ある企業が、 その企業の属する事業分野での先端の技術には追随できていないが、一世代前の技術分野に関しては豊富な経営資源を有しているという場合、先端技術を求める 市場分野向けにはそれは「弱み」であると同時に、旧技術分野に対する一定の市場ニーズが存在するのであれば、その市場分野向けには「強み」であるともいえ ます。
 そうした場合、「『強み』にも『弱み』にもとれる」と簡単に両論併記してすませるのではなく、今一度、「どのような顧客の、どのような ニーズに対して、自社はどのような特徴をもって応えようとするのか」という事業ドメインの明確化、あるいは企業戦略の再確認をおこない、それを基準にして 考えてみると、「『強み』にも『弱み』にもとれる」と評価に迷ったものが、おのずとどちらかに収斂していくものです。

■強みを活かす

 見定めることができた「強み」は、経営に活かされてこそ意味があります。「強みを活かす」とはどのようなことなのかについては、紙面の関係で、別な機会に論じたいと思います。
 上記に「強みにこだわる」としてまとめた内容は、「知的資産経営」という手法での経営のとらえ方の一部を展開したものです。